

さけ武蔵は埼玉県が独自に開発した酒造好適米で、花陽浴(はなあび)にとっては「地元の米」にあたる。羽生の南陽醸造が埼玉産のさけ武蔵を四割八分まで磨いて仕込むこの一本は、土地と蔵の結びつきを最も素直に映すボトルだと丸山は考えている。山田錦や雄町といった全国区の米とは別の文脈で、地酒としての花陽浴を味わえる。
栓を開けると、花陽浴らしい南国果実の香りが立ち上がる。山田錦版ほど押しは強くないが、パイナップルや白桃、メロンを思わせる甘く瑞々しいアロマがバランスよくまとまっている。さけ武蔵は突出した個性で押すより、全体の調和でまとめる米という印象で、花陽浴の華やかさをきれいに受け止める器のような働きをしている。無濾過生原酒のガス感が香りに生命感を添える。
含むと、ジューシーな甘みと米の旨みが穏やかに広がり、軽い酸と微発泡が後口を整える。山田錦版の濃密さ、雄町版の力強さに対して、さけ武蔵版は「親しみやすい中庸の甘旨」。突飛さがなく、花陽浴の華やかさを最も日常的に楽しめるバランス型といえる。冷酒(6〜10℃)で甘みと酸の均衡が最も整い、食中酒としても扱いやすい。
ペアリングは、深谷ねぎの焼きびたしや鶏の照り焼き、厚揚げの煮浸しといった、埼玉の地の食材を含む家庭的な和食。さけ武蔵の素直な味わいが、こうした飾らない料理にすっと寄り添う。デザート的にメロンと合わせても香りが響き合う。地元の食卓を思い浮かべながら傾けたい一本だ。
価格は四合瓶で定価2,400円前後。日本酒度・酸度は蔵非公表のため数値は酒質からの編集部推定だが、味の方向性は花陽浴の標準的な甘旨バランス型と考えてよい。山田錦や雄町の「全国区の華やかさ」とは別軸で、埼玉の地酒としての花陽浴を知りたい人に、このさけ武蔵版を勧めたい。