

岡山県高梁市成羽町、備中の山あいに蔵を構える白菊酒造の純米吟醸「備州」。創業は1886年(明治19年)、岡山産の酒米を軸に丁寧な吟醸造りを続ける蔵だ。この「備州」が面白いのは、雄町・朝日・山田錦という岡山ゆかりの3種の酒米を、それぞれ別々に仕込み熟成させてからブレンドして仕上げる点。単一品種では出せない複層的な味を狙った設計が、銘柄名の地名「備州」に重なる。
精米歩合は55%。グラスに注ぐと淡い色合いで、香りはメロンや洋梨を思わせる穏やかな吟醸香に、雄町由来とみられる米の含み香が下支えする。華やかさを前面に出す純米吟醸とは違い、香りと旨みのバランスを取った中庸の構え。鼻に抜ける吟醸香はあくまで上品な範囲で、料理の邪魔をしない作りだ。
含むと、3種ブレンドらしい厚みのある旨みがまず舌に乗る。雄町の濃さ、朝日の柔らかさ、山田錦の端正さが折り重なり、中盤に穏やかな甘みが顔を出してから、後半はゆるやかにキレていく。アルコール度数16%とやや高めだが飲み口は重くなく、旨みの密度で飲ませるタイプ。蔵が「備州」の日本酒度・酸度を明示していないため、編集部では飲み口から日本酒度+2前後、酸度1.5前後と推定しているが、甘辛でいえばほんのり旨口寄りの着地だ。冷酒(10〜13℃)で香りと旨みのバランスが最も整い、ぬる燗にすると旨みがふくらむ。
ペアリングは幅が広い。焼き魚や天ぷら、煮物といった和食はもちろん、旨みがしっかりあるぶん豚しゃぶのような少しコクのある料理も受け止める。香りが穏やかなので料理を選ばず、食中酒として一本で食卓を回せるのが強み。脂のある料理にはぬる燗で合わせると、旨みと脂がうまく噛み合う。
価格は四合瓶でおおむね1,900〜2,200円(実勢)。岡山の3酒米をブレンドする手間をかけた純米吟醸が、純米吟醸クラスとして無理のない価格に収まっている。突出した個性で驚かせる酒ではないが、香り・旨み・キレのバランスが整い、食中酒としての完成度が高い。岡山の酒米の懐の深さを一本で味わいたい人に、編集長が勧めたいバランス型の純米吟醸だ。