
八海山の吟醸は、特別本醸造の上、大吟醸の下という位置づけにある一本で、八海山の「淡麗辛口の中庸」を最もよく表している酒だと思う。精米歩合50%まで磨き、五百万石を軸に仕込むことで、本醸造よりもう一段澄んだ口当たりに仕上げてくる。
日本酒度+4、酸度1.0という数字が示すとおり、八海山シリーズの中でも特にキレ寄りの設計だ。酸が低いぶん後味がすっと消え、辛口の輪郭だけが残る。吟醸香はあるにはあるが、控えめで上品。香りを楽しむ酒というより、香りが料理の邪魔をしない範囲で寄り添う酒、という整理がしっくりくる。
特別本醸造との違いは、口に含んだ瞬間の透明感と余韻の伸びだ。磨きが5%深くなり、アルコール添加量や酵母の使い方も含めて、より滑らかで雑味の少ない液体になっている。一方、大吟醸(精米45%・日本酒度+5)ほど突き抜けた華やかさやシャープさはなく、その手前の「ちょうど良さ」に落とし込んでいる。価格も大吟醸より手頃で、日常的に手が届く。
冷酒からぬる燗まで温度の幅が広いのも吟醸の美点で、白身魚の刺身や天ぷら、塩焼き、冷奴といった淡白な料理ならほぼ何にでも寄り添う。味の濃い料理に当てるより、素材の味を活かした和食と合わせたい。
派手さで選ぶ酒ではない。だが、八海山の哲学である「飲み飽きしない食中酒」をいちばん素直に体現しているのは、純米大吟醸でも大吟醸でもなく、この吟醸かもしれないと思わせる実力派だ。