

秋田県大仙市協和の奥田酒造店が醸す「千代緑(ちよみどり)」は、十八代目の奥田重徳氏が蔵元杜氏として自ら仕込みを担い、蔵付の分離酵母や地元契約栽培の酒米を用いる小規模な手造りの蔵として知られる。家族規模で丁寧に造る蔵らしく、流通量は多くないが、辛口でキレの良い食中酒という芯のはっきりした酒質に定評がある。本稿が対象とするのはそのスタンダードな「純米酒」で、精米歩合60%前後、日本酒度はやや高めの辛口設計になっている。
香りは控えめで、炊いた米や穀物を思わせる穏やかな含み香が中心。吟醸酒のような華やかさで前に出るのではなく、あくまで料理の脇に控える佇まいだ。蔵付酵母由来のやや個性的なニュアンスがほのかに感じられ、画一的な大量生産の純米とは違う手造りの表情がある。
口に含むと、米の旨みが素直に立ち上がり、そこからキレへ向かう流れが速い。日本酒度が辛口側に振れた設計どおり、甘さを引きずらずすっと切れていく後口が心地よい。酸度1.5前後のしっかりした酸が旨みを引き締め、淡麗辛口というより「旨みのある辛口」と表現したい骨格を持っている。冷やすとキレがいっそうシャープになり、杯が進む。
温度帯は冷酒からぬる燗まで対応する。10〜13℃の冷酒では辛口のキレが前面に出て輪郭が締まり、40〜45℃のぬる燗にすると米の旨みがふくらんで角が取れる。辛口好きには冷やを、旨みを開かせたいなら燗をと、飲み手の好みで表情を選べる。ペアリングは白身魚の刺身や焼き魚、塩で食べる天ぷら、地元の漬物といった淡白〜素朴な料理に素直に重なる。
価格は四合瓶でおおむね1,400〜1,800円前後。大量生産品より一段上だが、蔵元杜氏が手掛ける小仕込みの純米と考えれば納得の価格帯だ。なお千代緑には純米吟醸「重右衛門の酒」や辛口生酒など複数のラインがあり、本稿はスタンダードな純米酒を対象としている。スペックは蔵元・流通各店の公開値に基づく代表値で、製造ロットにより前後する。華やかさよりキレと手造りの個性で選ぶ、秋田・協和の実直な辛口純米として推せる一本。