埼玉県

秩父錦 純米酒

蔵元: 矢尾本店
純米 原料米: 国産米 精米歩合 60%
★ 4.0
★★★★・
編集長 丸山評価

スペック

日本酒度
+2
酸度
1.5
アルコール度数
15%
価格目安
1,300〜1,600円
味わいレーダーチャート
香り甘みキレ余韻個性
4象限ポジション
辛口甘口淡麗濃醇 爽快・キレ系穏やか・優しい系どっしり辛口芳醇・甘口

料理ペアリング

刺身 焼き魚 煮物 天ぷら

この銘柄のタグ

編集長レビュー

編集長 丸山
日本酒愛好家・延べ1000銘柄を試飲

埼玉県秩父市、宝暦年間に酒造りを始めた矢尾本店による「秩父錦 純米酒」。江戸期から続く老舗で、秩父盆地の山々に囲まれた地で武甲山系の伏流水を仕込み水に使う。地元秩父を代表する地酒として知られ、グラスに注ぐとごく淡い山吹色がうっすらと差す。派手さのない落ち着いた色合いが、この酒が華やかさよりも食中での実用を狙った一本であることを物語っている。

香りは穏やかな含み香が中心。鼻先で探すと、炊いた米やわずかな穀物様のニュアンスが静かに立つ程度で、吟醸系の華やかな果実香は前に出てこない。精米歩合60%の純米らしい、米の素性をそのまま映した香り立ちで、料理の匂いを邪魔しない引き算の設計だと受け取った。一杯目から「これは食卓の酒だ」と姿勢を正したくなる落ち着きがある。

味わいの中心は、米由来のふくよかな旨みと、それを支えるほどよい酸。日本酒度+2前後・酸度1.5という数値どおり、甘辛のバランスは中庸からやや辛口寄りで、旨みが乗ったあとに後口がすっと締まる。冷や(10〜13℃)では旨みと酸の輪郭がはっきり出て端正にまとまり、ぬる燗(45〜50℃)に上げると旨みが丸く開いて酸がやわらぐ。冷やでも燗でも破綻しない懐の深さがあり、温度を動かして表情の変化を楽しめる食中純米だ。

ペアリングは、秩父の山の幸も含めた和食全般が似合う。刺身や焼き魚といった淡い肴には冷やで、煮物や天ぷらのようなコクと脂のある料理には燗で合わせると、旨みと酸が料理を受け止めて互いを押し上げる。突出した香りがないぶん、味付けの濃淡を選ばず幅広い肴に寄り添えるのが持ち味だ。

価格は四合瓶でおおむね1,300〜1,600円(720ml実勢)。日常の晩酌に無理なく置ける価格帯でありながら、老舗が地元の水と米で磨いてきた食中純米としての完成度は手堅い。華やかな銘柄の合間に、料理を主役にして静かに飲みたい夜の一本として、秩父の風土を映したこの定番を手元に置いておきたい。