

塩竈神社のふもとで1716年から続く阿部勘酒造の「純米吟醸」を、編集部で抜栓してみた。塩竈は古くから魚市場で栄えた港町で、ここの酒は「魚に寄り添う酒」として地元で育ってきた歴史がある。グラスに注ぐと色はほぼ無色透明に近く、まずこの清潔感が阿部勘らしいと感じる。華やかさで押すタイプではなく、最初の一杯から食卓に静かに溶け込む構えの酒だ。
香りは穏やかで、吟醸酒にありがちなメロンやバナナの派手な立ち香はあえて抑えられている。鼻を近づけると、宮城の酒造好適米「蔵の華」を55%まで磨いた、すっきりとした穀物香と、奥にほのかな果実のニュアンス。香りで主張せず、料理の匂いを邪魔しない設計で、塩竈の魚を食べる場面を想定して造られていることが伝わってくる。
味わいは、口に含むと米の旨みが控えめに広がり、すぐに酸とキレが追いかけて後口をスパッと切る。日本酒度は+5前後の辛口寄りで(蔵元・販売店表記による。SKUにより+5〜+6の幅があり、ここでは代表値を採用)、甘さの余韻を残さず、次の一口、次の一箸を誘う。淡麗辛口の系譜にありながら、純米吟醸らしい旨みの厚みもきちんとあって、痩せた印象にならないのが好ましい。
温度帯は冷酒(8〜12℃)でキレと透明感が際立つが、常温に近づけると米の旨みがふくらみ、ぬる燗(40℃前後)にすると後口の柔らかさが増す。冷やしてシャープに飲むのも、温めて旨みを引き出すのも、どちらも様になる懐の深さがある。
ペアリングは、やはり塩竈の港町を思い浮かべるのが早い。白身魚の刺身、焼き魚、塩茹での魚介、塩でいただく天ぷら。淡麗で辛口のキレが脂や塩気をすっと流し、魚の繊細な旨みを引き立てる。価格は四合瓶でおおむね1,800〜2,200円(実勢)。港町の食中酒という出自を、肩肘張らずに教えてくれる一本だ。