

愛知郡愛荘町、JR稲枝駅にほど近い藤居本家は、能登杜氏の技を受け継ぐ蔵として知られる。この「黒渡」は、山田錦の親にあたる希少米・滋賀渡船六号を地元で栽培し、精米歩合70%とあえて磨きを控えた特別純米の生原酒。渡船という米の素性をそのまま出し切ろうという意図が、ラベルからも伝わってくる。
注ぐと色合いはやや黄味を帯び、香りは穏やか。吟醸香を狙った酒ではなく、立ち上がるのは炊いた米や栗を思わせる落ち着いたトーン。原酒らしい厚みのある含み香で、最初から「飲み応えで勝負する一本」だと分かる。
口に含むと、アルコール18度の原酒らしい密度の高い旨みが舌の上に乗ってくる。日本酒度+2は数字上ほぼ中庸だが、酸度2.1の高さが効いていて、甘ったるさに転ばず後半はしっかり引き締まる。渡船特有の野太い旨みと、その旨みを断ち切る酸のコントラストが、この酒の最大の見どころだと感じた。
冷やしすぎると酸ばかりが目立つので、12〜15℃あたりから始め、ぬる燗(40℃前後)まで温度を上げていくと旨みがふくらんで化ける。燗にしたときの伸びの良さは、磨きを抑えた特別純米ならでは。家飲みなら、常温と燗を行き来しながら一本を長く楽しむ飲み方を勧めたい。
ペアリングは、鴨や牛すじといった脂と旨みのある料理、味噌を使った濃い味付けと相性が良い。淡い前菜に合わせると酒が勝ちすぎる。原酒なので開栓後は数日かけて味が落ち着き、酸の角が取れていく変化も含めて、ゆっくり付き合える銘柄。