

近江高島、安曇川のほとりに蔵を構える福井弥平商店の「萩乃露(はぎのつゆ)」は、創業260年余の歴史を背負いながら、いまも安曇川の伏流水と地元・滋賀の米にこだわり続ける蔵だ。今回向き合ったのは、その軸となる純米吟醸。派手さで売る一本ではなく、日々の食卓に寄り添う設計をした酒という印象を、最初の香りの段階から受けた。
グラスに注ぐと、洋梨や白い花を思わせる穏やかな吟醸香が立つ。ただし主張は控えめで、料理の香りを邪魔しない範囲にとどめている。山田錦と滋賀産の吟吹雪を60%まで磨いた構成で、口に含むと米のふくらみが先に来て、そこへ軽い甘みと締まった酸が続く。日本酒度はおよそ+3前後、酸度1.6あたりの、やや辛口寄りで中庸なバランスだと感じた(※基本スペックの一部は非公開のため、同蔵の純米吟醸群から推定した代表値)。
温度による表情の変化が大きい。冷酒(10〜13℃)では輪郭がくっきりし、吟醸香と酸のキレが前に出る。常温に近づけると米の旨みがほどけ、ぬる燗(40℃前後)まで上げると甘旨が膨らんで丸くなる。一本で冷やからぬる燗まで楽しめるのは、食中酒として頼もしい。
ペアリングは和食の定番が手堅い。白身魚の刺身、焼き魚、湯葉や生麩といった京近江の淡い味付け、鶏の塩焼きあたりまで広く受け止める。濃い煮付けにも酸が脂を流してくれるので、晩酌のメインを選ばない懐の深さがある。
四合瓶で1,500〜2,000円。萩乃露には別誂えやももとせといった上位ラインもあるが、まずこの純米吟醸が「蔵の素の味」を知るのにちょうど良い。毎晩のローテーションに無理なく組み込める価格と完成度で、滋賀の食中酒として一度押さえておきたい一本だ。